コンピテンシー(competency)は、『高い業績を収めている従業員(ハイパフォーマー)に共通して見られる「行動特性」のこと』を意味します。
コンピテンシーは近年、人事評価、人材育成の分野でたいへん注目されている考え方です。
企業のコンピテンシーモデルを明らかにし人事評価や採用面接、人材育成の場面でこれをうまく利用すれば、人事評価の基準が明確になり、スタッフのモチベーション向上にも効果を発揮します。
さぁ、あなたもコンピテンシーについて正しく理解しましょう。
コンピテンシーとは?
コンピテンシーとは、高い業績・成果につながる行動特性のことです。
ハイパフォーマーが「普段どのようなことを意識しているのか?」「どのような思考を持ち、行動をしているのか?」など、その行動を分析して特性(コンピテンシー)を理解することで、業績や成果を出す理由を明確にし採用や評価・育成に役立てることができるのです。
単純に言うと、ハイパフォーマーをベンチマークとしてその行動の裏に隠れた意識や思考を明快な形(コンピテンシー)に示すことで、他者のパフォーマンスも上げることに活用しましょうということです。
因みに「行動特性」は大別すると「能力」と「行動」に分けることができます。
従来型の評価システムでは、能力のみを重視する傾向がありました。しかし、職務に向かう姿勢や積極性などその成果に至る「行動」にフォーカスをあてるのがコンピテンシーの発想です。
行動を分析、評価しその特性を誰にでもわかるように明文化して、評価・育成に生かすことが大切というわけです。
現在、コンピテンシーモデルが企業で用いられる場面は、主に『採用面接』『人材評価・育成』の2つです。
コンピテンシーを可視化して評価・育成に適切に活用することが、組織全体のパフォーマンス向上につながるのです。
コンピテンシーが注目される背景
企業や社会では、かつての年功序列制に代わり成果主義がすっかり浸透しています。
しかし、成果主義による評価が万能かというと必ずしもそうではなく、成果一辺倒の評価制度が孕む矛盾に、多くの企業が気づき始めています。
年功序列や職能給のみによる古いタイプの評価制度は職能資格型といいますが、従来からの職能資格型の評価と、成果主義型評価の両方の良い面を備えた新たな評価制度が、コンピテンシーに基づいた評価制度いえます。
コンピテンシーの歴史
コンピテンシーは組織行動学の用語で、ハーバード大学のマクレランド教授が提唱した概念です。
1070年代、当時の米国文化情報局(USIA)が、学歴や知能指数(IQ)を基準に採用した職員のパフォーマンスが決して良いとは限らないことに気づき、ハーバード大学の行動学の専門家に相談したことがきっかけでした。
そこでハーバード大学で動機づけ理論を研究していたマクレランド教授が優秀な職員とそうでない職員を主に調査すると、次のことが明らかになりました。
・職員のパフォーマンスと学歴・知能には、あまり相関性がない
・ハイパフォーマーは特有の行動をしており、それに結びつく思考パターンや性格などの動機的な部分にも特徴がある
この調査結果が「行動」に焦点を当てた、コンピテンシーという概念のきっかけになったのです。
コンピテンシーモデルとは
コンピテンシーモデルは、『コンピテンシーの概念を人事などの実務で使うためにモデル化したもの』です。
業種や職種に応じて適切な行動特性が異なるため、業種や職種毎にコンピテンシーモデルを作成する必要があります。
同業他社のものを参考にできればよいですが、適切なものがない場合は、他業種のものなども参考にしながら独自に作成する必要も生じます。
コンピテンシーモデルのつくり方
コンピテンシーモデルの作成方法を紹介します。
高い成果を上げている従業員へのヒアリング
自社独自のコンピテンシー項目・モデルを作る際、まずすべきなのが高い成果を上げている従業員へのヒアリングです。
注意すべき点は、コンピテンシー項目・モデルは職種・役割ごとに作成するのが一般的なため、ヒアリングも職種・役割ごとに実施します。
「普段から、どういう姿勢で仕事に臨んでいるか」「何か行動を起こす際、どうしてその行動をする必要があると思ったのか」「何かを決断する際、他の選択肢も検討したか」といったさまざまな質問をし、高い成果を上げている従業員の行動特性を洗い出します。
傾向分析をもとに、コンピテンシー項目の原案作成
ヒアリング結果をもとに、「高い成果を上げる従業員の思考・行動にどういった共通点があるのか」傾向を分析します。
分析結果をもとに、職種・役割ごとにコンピテンシー項目・モデルの原案を作成します。
企業理念・ミッションと、原案との照合
企業の成長につなげるためには、コンピテンシー項目と企業の目指すべき方向性が合致していることが重要です。
そのため、コンピテンシー項目の原案が固まったら、企業理念やミッションと照合し、
理念やミッションと矛盾する項目があった場合には、原案から除外します。
コンピテンシーモデルの策定・明文化
企業理念やミッションとのすり合わせが済んだら、コンピテンシーモデルを明文化します。
コンピテンシーモデル作成時の注意点
コンピテンシーモデルを作成するうえで、誤解しやすい点を補足します。
コンピテンシーとは行動そのものをモデル化するものではありません。様々な場面において行動の根拠となる最適な判断や動機・意識といったものをモデル化するものです。
従って行動そのものをモデル化して、行動を固定化することではありません。むしろコンピテンシーモデルによって行動に柔軟性を持たせるものが望ましいといえます。
作成にあたっては、ハイパフォーマーの行動そのものに注目するのではなく、動機や意識に注意を向けることが重要になります。
また評価項目やレベルは幅広に設定して柔軟性を持たせることを意識しましょう。
コンピテンシーの例
コンピテンシーモデルの評価項目は、決まった形があるわけではありません。業種や職種によって求められる成果やパフォーマンスが異なるからです。
そこで我々は、自分たちの組織におけるコンピテンシーとは何かを見出して、それに基づいた評価をすることが大切になります。
以下に参考まで、コンピテンシーについていくつかの例を示します。
出典元『日本生産性本部』コンピテンシー評価モデル集
・成果達成志向
・コミュニケーション
・チームワーク
・マネジメント
・部下育成
・顧客満足
・自己研鑽
・行動・時間管理
・論理的な問題解決
・関係構築
・達成とアクション
出典元『コンピテンシーディクショナリー』 ライルM.スペンサー シグネM.スペンサー
達成重視
秩序、クオリティ
イニシアチブ
情報探求
・支援と人的サービス
対人関係理解
顧客サービス重視
・インパクトと影響力
組織の理解
関係の構築
・マネジメント・コンピテンシー
他社の開発
指揮命令
チームワーク
リーダーシップ
・認知・コンピテンシー
分析的思考
概念化思考
技術的専門的能力
・個人の効果性
セルフコントロール
自己確信
柔軟性
組織へのコミットメント
まとめ
このように、コンピテンシーモデルの作成には多くの労力がかかりますが、作成したコンピテンシーモデルを活用しても、必ずしも直ぐ目に見えて生産性が向上するケースばかりではありません。
しかしコンピテンシーモデルを検討し明文化し、それに基づいた評価を行い、適切なフィードバックを行うことには十分なメリットがあります。
それは、「適切な評価がされていない」「どこをみて評価されているのかわからない」「評価者の主観によって評価がブレる」などといった人事評価に対する不満を防ぐことができ、スタッフのモチベーション維持に役立つからです。
またそれだけではなく、普段から上司と部下が積極的にコミュニケーションをとり、組織のミッションを共有化していることも大切なポイントです。